性感染症の用語
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               〈公  示〉

  性感染症に関する基本的な用語について(改訂)

 日本性感染症学会では、性感染症に関する基本的な用語とその英訳について、用語委員会を設置して検討のうえ、会員による一年間の検討期間を経て2003年に決定、公示したが、その後、感染症法の改正があり、改訂が必要となった。そこで、委員が各項目を点検の後、改訂案が200410月の常任理事会に提出され、承認されたので、ここに改訂全文を掲載する。主な改訂個所は、尖圭コンジローマの項で、ここを全文書き換えたほかは、感染症新法から新を削除するなど、字句の統一をはかったことである。この結果、日性感染症会誌1317頁掲載の「用語について」の公示は、全面改訂されたことになる。
 なお、本稿は、広く活用されることを期待しているので、「日本性感染症学会の用語(2004年)による」と引用してくだされば、転載は自由である。

 

200410月15

日本性感染症学会用語委員会

委員長 守殿 貞夫

 

     日本名                  英名

1.性感染症               sexually transmitted diseases

2.梅毒                 syphilis

3.HIV感染症             human immunodeficiency virus infection

4.後天性免疫不全症候群またはエイズ   acquired immunodeficiency syndrome

5.性器クラミジア感染症         genital chlamydial infection

6.性器ヘルペス             genital herpes

7.淋菌感染症              gonococcal infection

8.尖圭コンジローマ           condyloma acuminatum

9.腟トリコモナス症           trichomonas vaginalis infection

10.性器カンジダ症            genital candidiasis

11.性器伝染性軟属腫           genital molluscum contagiosum

12.ケジラミ症              pediculosis pubis

13.軟性下疳               chancroid

用語選定にいたった経緯

1.性感染症の英訳について

 性感染症は、従来STD(Sexually Transmitted Diseases)と表現されることが多かったが、近年、STI(Sexually Transmitted Infections)という用語も使われている。HIV/AIDSに代表されるように、STDの中に、感染はしていても発症しない疾患が目立つようになってきたこともその一因であるように思われる。また、英国には、「Sexually Transmitted Infections」というJournalがあり、STIUK national guidelineが、その1999vol.15に掲載されている。わが国においても、東京都医師会雑誌では、感染症関係のサーベイランスのなかで、すでにSTIという用語が用いられ、定期的に報告が行われている。
 一方、米国では、CDC1998年および2002年にGuidelines for Treatment of Sex-ually Transmitted Diseasesを公表し、「Sexually Transmitted  Diseases」や「Inte-rnational Journal of STD&AIDS」というJournalも存在していることから、現時点では用語としてSTDが主流になっているものと思われる。また、インターネット上でMEDLINEから文献検索を行ってみると、STDをキーワードとした場合とSTIをキーワードとした場合とでは、検索数に大きな差がみられる。例えばSTIとした場合に検索できる論文は殆どが前述した英国の「Sexually Transmitted Infections」という雑誌からのものであり、数がかなり限定されたものになっている。
 このような結果を踏まえて用語委員会で議論が行われたが、将来的にSTDSTIに変わる可能性はあるものの、現時点ではCDCが現在用いている用語の方を優先するべきであろうとの結論に達した。

 

2.梅毒 syphilis

 従来より、一般的に用いられているので採用した。

 

3.HIV感染症 human immunodeficiency virus(HIV) infection

 human immunodeficiency virus (HIV) infectionはヒト免疫不全ウイルス感染症と言うのが正しいと思われるが、冗長であること、およびhuman immunodeficiency virusの省略型としてのHIV」が「HBVB型肝炎ウイルス)や「HCV」(C型肝炎ウイルス)と同程度に認知されており、日本感染症学会や日本エイズ学会をはじめとする関連医学界で広く使われていることから、human immunodeficiency virus infection”を学会用語として「HIV感染症」と呼ぶことは妥当と思われる。
 また、HIVに感染後、後天性免疫不全症候群に至るまでの間、無症候の時期が10年近くあるため、この期間も含め「症」と呼ぶことに議論があった。しかし、無症候ではあっても通常HIVは常に活発に複製を続け、CD4陽性リンパ球を破壊し続けている。したがって、無症候とは言えず活動性の感染症と考えられるので、「HIV感染症」と呼ぶことが適切と思われる。
 なお、この用語はHIVに感染している状態を指すものであり、後天性免疫不全を発症した状態も含まれる。

 

4.後天性免疫不全症候群またはエイズ acquired immunodeficiency syndrome(AIDS)

 acquired immunodeficiency syndromeAIDSは後天性免疫不全症候群と和訳されており、感染症法にもこの訳が使われているので「後天性免疫不全症候群」と呼ぶことに問題はない。
 一方、英語圏では
acquired immunodeficiency syndromeAIDSと略すことが慣用化され、定着している。日本語でも「後天性免疫不全症候群」はやや長いので、「エイズ」と称されることが多く、利便性を考えると、学会用語として「エイズ」も採用することが適切と考えられる。

 

5.性器クラミジア感染症 genital chlamydial infection

 本用語委員会で取り扱うクラミジア感染症とは、chlamydia trachomatisによる性感染症を示しており、一般にクラミジア感染症には、クラミジア肺炎、クラミジア結膜炎なども含まれるため、これらと区別する目的で「性器クラミジア感染症」(genital chlamydial infection)を採用した。
 また、感染症法にも同様に性器クラミジア感染症が用いられている。

 

6.性器ヘルペス genital herpes

単純ヘルペスウイルスによって発症する本疾患には、性器へルペスの他に性器ヘルペス症、外陰ヘルペス、陰部ヘルペス、陰部疱疹などの用語が用いられてきた。感染症法では性器ヘルペスウイルス感染症が用いられているが、「性器ヘルペス」を採用することにした。
 単純ヘルペスウイルスによる疾患名には、従来より、角膜ヘルペス、口唇ヘルペスという言葉が慣習的に用いられてきた。つまり、ヘルペスという言葉の中にこのウイルスによる疾患という概念が含まれていて、その部位を表わす言葉が前に付せられる言い方である。したがって、性器ヘルペスはなくてもよく、また、この疾患は外陰だけの疾患ではないので、外陰は不適当である。陰部という言葉は暗いイメージを伴うことから、性器を用いるようになってきている。性器ヘルペスウイルス感染症は長すぎるので、日常的には使い難い。この点、性器ヘルペスは使い勝手が良いこともあり、これを採用した。

 

7.淋菌感染症 gonococcal infection

ICD-10(international classification of diseases-10)では“gonococcal infection”という

用語に統一されており、本学会では、「淋菌感染症」が広く用いられ、感染症法でもこの言葉が使用されている。また、日本泌尿器科学会用語集第3版(2003年)ならびに泌尿器科感染症用語集(UTI研究会編)のいずれにも掲載されている。
 淋菌感染症と同一の用語とされる淋疾に関しては、性器の淋菌感染症を表す言葉であり、最近、性行為による咽頭の淋菌感染症もしばしばみられるようになってきたこと等に鑑み、淋疾という用語を採用しなかった。

 

8.尖圭コンジローマ condyloma acuminatum

1999(11)年4月に施行された感染症法では、尖圭コンジローマは性感染症の一つとして4類感染症に分類されたが、ここでは尖形コンジロームと表記された。尖圭という病名は、明治時代につくられたものであるが、尖も圭も先がとがっているものを意味する。また、コンジローマは顆粒状の腫瘍という意味であるが、ドイツ語読みのコンジロームではなく、一般的にはメラノーマなどと同様に英語読み、あるいはラテン語の発音によってマと表記するのが正しい。
 本学会では、2002(14)年4月25日の用語についての公示で、尖形コンジロームを採用した(日性感染症会誌13(1):7,2002)。しかし、感染症法は施行後5年目に規定を見直すことになっていたので、日本性感染症学会から厚生労働省の感染症法検討の部会に尖圭コンジローマへの改正を要請した。また、2003(15)年の用語に関する公示では、「尖形コンジローム(注:「尖圭コンジローマ」とする方が望ましい)」とした(日性感染症会誌14(1)7:2003)。
 2003(15)1030日の官報で、尖形コンジロームは、尖圭コンジローマと改められることになり、改訂された感染症法では5類感染症となった。そこで、本学会の用語も「尖圭コンジローマ」と変更された(日性感染症会誌15(1):7,2004)。

 

9.腟トリコモナス症 trichomonas vaginalis infection

 トリコモナスには口腔、腸、腟の3種があり、病原性があるのは、腟トリコモナス(T.vaginalis)だけというのが定説である。ICD-10には、トリコモナス症として、@尿路性器トリコモナス症、Aその他の部位のトリコモナス症、B詳細不明のトリコモナス症とあるが、ほとんどが@で、腟トリコモナスによるものであるから、「腟トリコモナス症」を採用した。ちなみに欧米の成書では、トリコモナス症は腟トリコモナスによる疾患と明記されている。          

 

10 性器カンジダ症 genital candidiasis

女性では外陰および腟のカンジダ症、男性ではカンジダ性亀頭包皮炎、(ICD-10では外陰および腟のカンジダ症と、その他の尿路性器のカンジダ症と記載されている)があるが、用語上は「性器カンジダ症」で適当である。
 CDCSTDガイドライン(1998年および2002)にはvulvovaginal candidiasis(外陰腟カンジダ症)の用語が用いられていることもあり、英名は“genital candidiasis”を採用した。

 

11 性器伝染性軟属腫 genital molluscum contagiosum

 伝染性軟属腫(molluscum contagiosum)は、性器や外陰部に限らず全身の皮膚に生じうる疾患であり、一部に性感染症として成人の外性器、肛門周囲を中心にみられる病型がある。この病型をどのような疾患名で呼称するかについては、一般的な見解はない。このたび、性感染症としての伝染性軟属腫についての用語を策定するにあたっては、英語名は“genital molluscum contagiosum”が適切であると考えられた。
 和名については、性器伝染性軟属腫、外陰部伝染性軟属腫、陰部伝染性軟属腫、外陰伝染性軟属腫などが考えられるが、ここでは、性器ヘルペス、性器カンジダ症でgenitalを性器としていることも考えあわせて、「性器伝染性軟属腫」を採用することとした

 

12 ケジラミ症 pediculosis pubis

 ケジラミ症は、いわゆるシラミ症、pediculosisの一種で、phythirus pubisの感染による。和名は、ケジラミ症、毛ジラミ症、毛虱症などの表記が考えられたが、日本皮膚科学会などの表記から、ケジラミ症とするのが最も一般的と考えられたため、「ケジラミ症」を採用した。英語名はphythiriasis pubispediculosis pubispubic liceなどの表記が考えられたが、シラミ症全体はpediculosisであり、“pediculosis pubis”が最も一般的と考えて、これを採用した。

 

13 軟性下疳 chancroid

 軟性下疳の英名は内科、産婦人科、泌尿器科、皮膚科で多少異なり、chancroidsoft chancreなどが用いられているようである。

日本産科婦人科学会用語集第4版にはsoft chancreとあるが、ICD-10ではchancroidという用語に統一されており、本学会用語委員会では「軟性下疳(chancroid)」を採用した。

以上